・。*あしたも晴れるかな*。・

薔薇、猫、物語、弁当作りとショパンが好き!今は雨でも虹色の人生めざして航海する日々の出来事*


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雨猫♪
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          雨猫 


      *本当にあった猫の話*



朝からの雨は昼過ぎになってもやまなかった。

この世の罪の全てを洗い流そうとするかのように

激しく降っていた。

雨そのものには音はない。

雨粒に叩かれたものたちが声をあげていた。

午後から仕事に出かける私は 雨の様子を見ようと

勝手口の戸を少し開けて外を見た。

「うわっ」

思わず声が出るほどすごい音としぶきだった。

急いで戸を閉めようとしたその時、下の方に何かいた。

猫?  

黒っぽい毛のお尻らしいものが見えた。

ここのテラスには、上にちょっとした雨除けの

突き出した屋根があり、少しくらいの雨なら

大丈夫だった。

猫は壁側にぴったりと添うようにいた。

戸をもう少し開けて上から覗き込むように見た。

キジトラで、短毛MIXにしては毛が長く

ノルウェージャンみたいだった。

「あれ。この子見たことあるな。」

最近このあたりで見かけるようになったノラ猫だった。

ノラといっても人懐っこくて、人を恐れなかった。

ハスキーで、甘ったるい声がかわいい子だった。

きっと元飼い猫だったに違いない。

あんまり可愛いから「Pretty」の「プリ」と

勝手に名前を付けていた子だった。

初めて見かけた時は一歳にも満たないくらいの

大きな子猫だったけれど

今日見たら大人になりきった感じだった。


降り続く雨で、いくら屋根があっても

毛先はほんの小さな霧状の雨粒で覆われていた。

耳が赤くなっているのでよく見ると、耳の付け根から

血が滲んでいた。

うちにいる三匹の猫たちに気づかれないように

そっと戸を閉めた。

こんな雨の日にうちに来るなんて。

行く所がないんだろうか。

怪我をして苦しいんだろうか。

とめどなくいろんな事を思い始めると

そのことだけで頭がいっぱいになった。

台所でまだ済んでいなかった食器の洗い物をしながら

考えた。

とりあえずエサをやってみようと思った。

セトモノの小皿にうちの猫にあげている猫缶を

スプーン山盛り一杯用意した。

びっくりして逃げないように、さっきよりもそおっと

勝手口の戸を開け、ぷりちゃんのお尻のすぐ後ろに

置いた。

そおっ・・・と閉めた。

この雨音のおかげで戸の開け閉めやエサ置きも

気づかれなかった。

うちの中では雨音が半分くらいの音に小さくなった。

息もつけない程に降り続いていた。


親や兄弟や友達や恋人、大切なものは猫以外にも

たくさんある。なのにこんな場面に出くわすと

私には猫が世界中で一番大切で、切ないほどに

愛しいものになってしまうのだ。


親元を離れ、東京に一人で住んでいた学生時代の

ある夜のことだった。

子猫の鳴き声がどこからか聞こえてきた。

気になりだしてから何時間もたっても

まだ鳴いていた。

いてもたってもいられなくなった私は

外へ出て声の方へ辿って行った。

四階にあった部屋から階段を下り

道路を渡った所に草ぼうぼうの空き地があった。

そこあたりから声が聞こえるのだが

背の高い街灯が一つあるだけで、よく見えなかった。

けれど草むらにちち゛こまって鳴いている子猫を

見つけることができた。

抱き上げるとプルプルと震えていた。

両手の中にすっぽり入るほど小さな子猫だった。

誰がこんなひどいことをするんだろう。

怒りと哀れさがごちゃ混ぜになって

悲しくなった。

胸に張り付けるように両手で抱くと

ぴったりと鳴きやんだ。

子猫の温かい体が私の冷たくなった手を温めた。

走る車の数も少なくなった真夜中の道路を

落とさぬようにしっかり抱えて渡り

部屋に戻った。

暗がりでは良く分らなかったが毛色はブルーグレーで

ロシアンブルーのMIXのようだった。

すごくきれいな毛並みだった。

今住んでいるところでは猫が飼えない。

次の日 学校を休んで実家のある新潟まで

ボストンバッグに入れて連れ帰ることにした。

時々バッグの中を見ていたが

驚くことに実家に着くまでミィとも鳴かず

本当におりこうさんにしていた。

猫なりに また捨てられないようにとでも

思っておとなしくしていたのだろうか。

小さな命の懸命さが けなげだった。

家族が迷惑なのはわかっていたが

こころよく受けてくれた母に 子猫を預けてまたすぐ

東京に戻った。



何十年も前のことだ。

今また あの時と同じ気持ちになっていた。

もしものことを考えて、すぐに動けるように

動物病院の連絡先を調べ、キャリーバックを用意した。

仕事先には子供が熱を出したからと嘘をついて

キャンセルの電話をした。

自分でもここまでやるかとあきれた。


けれど どうしても そうしたかった。


準備を終えるとまたそっと勝手口の戸をあけてみた。

小皿のエサが全部無くなっていた。

食欲はあるんだと安心した。

雨はさっきより小降りになっている。

息を殺してさらに戸を開いて顔を出し

丸くなって横たわるぷりちゃんの全体を見た。

私に気づいたぷりちゃんは顔を動かさずに

目だけ上を向いてじっとこっちを見た。

目と目が合ってしばらく見合った。

ぷりちゃんは逃げようともせず怖がりもせず

ただ私の目を見ていた。

やっぱり元飼い猫なんだと思った。

ここに来るまでのことは知ることはできないけれど

懸命に生きようとしていることは確かだ。

アーモンド型の目はきれいな緑色だった。

瞳の中のさらに深い緑の玉がかすかに動いた。

耳の怪我が気になったけれど

弱っているようには見えなかったし食欲もあった。

今すぐ動物病院に連れて行くこともないと思った。

またそっと自分の顔をしまうように勝手口の戸を閉めた。


それから三十分ほど経った頃だった。

鳥たちがさえずり始め、空がパアっと明るくなった。

雨は滴だけを残していなくなり

青空が顔をだした。

またそ・・っと勝手口を開けてみた。




ぷりちゃんはもういなかった。



動けるのは元気な証拠なんだと自分に言い聞かせたけれど

寂しかった。


雨と共にやってきて
雨があがると共にいなくなった。

雨猫だ。


このことがあって以来 

ぷりちゃんは毎朝六時にうちの勝手口に来るようになった。

けれどだんだんその回数も減り

今ではほとんど来なくなった。

他にも面倒を見てくれる家が何軒かあったからだ。

他の家のエサの方が美味しいのかどうかは分らないが

ぷりちゃんが自分の幸せの為にそうしているのなら

それはそれで良かった。

結局今はお向かいさん宅の外猫として

元気にしている。

耳もきれいに治してもらい

首輪もつけてもらっている。


あの雨の日はぷりちゃんと私だけの記念日だ。

ぷりちゃんにと 用意した首輪は使わずじまいだったけど

まだそのまま大切にとってある。


「いつまでも幸せでありますように!」 のお守りとして。


     
     
             くびわ






終わり
         by しゃぼん



おまけ
*ぷりちゃんは今も たまあ〜〜には来ます^^*


*******

こんな稚拙な文章ですが
最後までお読み下さりありがとうございました。
また来週♪

読んだ感想やご批評など
お書き下さると嬉しいです。
よろしくお願いします。


明日晴れるかな
また明日!
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| 2012.09.30 Sunday (07:20) | 小さなお話 | comments(1) | trackbacks(0) |
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